東京高等裁判所 昭和51年(行ケ)141号 判決
一 請求原因一ないし同三の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、原告の主張する審決取消事由の存否について検討する。
1 引用例について
(一) 原告は、引用例が開示しているのは硬質ウレタンフオームについてのみであつて、軟質又は半硬質ウレタンフオームについては開示していない、と主張する。
成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例は、一九六〇年八月二九日アメリカ合衆国において特許出願された「選定された表面部分上に表皮をもつプラスチツクフオームを成形する方法」と題する発明の明細書であつて、その第一欄一〇行~三三行には、
「この発明は一般にプラスチツクフオームに関し、更に詳しくはプラスチツクフオーム構造部材の改善された製法及び製造装置及びそのような製法によつて製造された製品に関する。この発明は広範な適用性をもつものであるが、特に冷凍業における用途に関して記述する。術語に関して、この明細書で使用する「プラスチツクフオーム」とは、イソシアネートと適当なヒドロキシル基含有化合物との、ガス生成工程を使用して発泡体を造る反応によつて造られたウレタン結合をいう総括的な意味をもつものである。ウレタン重合体は、最も普通には、ジイソシアネートと末端ヒドロキシルポリエーテル又はポリエステルとの反応によつて造られる。……中略……このようなフオームの性質は反応剤の相対量を変えることによつて広範囲に変えることができる。反応剤の種類を選択することによつて架橋量を調節でき、この因子がフオームの剛性特性を決定する。これらの成分を適当に配合することによつて広範囲の物理的性質を得ることができる。」との記載があることが認められるから、これによれば、引用例の発明は広範囲のプラスチツクフオームについて適用性を有することを示していると解される。
他方、成立に争いのない甲第一二号証の一・二によれば、硬質ウレタンフオームと軟質ウレタンフオームの差は、使用されるポリヒドロキシル化合物の種類に依存すること、そして、軟質ウレタンフオームは、引用例の特許出願日である一九六〇年八月二九日前に既に公知であつたことが認められるのである。
そうすれば、引用例の前示記載は、当然、硬質ウレタンフオームに限らず、軟質又は半硬質のウレタンフオームについても示唆しているものと解するのが相当であるから、原告の主張は採用できない。
なお、原告は、引用例に開示されている原料組成は硬質ウレタンフオームのものだけであると主張するが、前示引用例の記載にも「この発明は広範な適用性をもつものであるが、特に冷凍業における用途に関して記述する。」とあるところから明らかなように、それはあくまでも適用の一例を示したに過ぎないものと解せられるから、右の判断を左右するに足りない。
(二) 原告は、引用例には、本願発明において特定する多官能性化合物の使用及びその量についての開示がないから、審決は引用例の技術内容の認定を誤つていると主張する。
しかしながら、審決は、本願発明が引用例に示唆された発明であるとしているのではなく、本願発明は引用例及び公知の事項により当業者が容易に推考しえた発明に過ぎないとしているのであるから、原告の右主張は審決の取消事由としては、それ自体失当である。
2 材料の公知性について
(一) 原告は、甲第二号証のポリオキシアルキレンアミンは本願発明にいう多官能性化合物とは異なるものであると主張する。
原告の右主張は、本願発明におけるアミンが、芳香族性アミンであるか、又は立体障害のある脂肪族性アミンであるということを前提としているものであるが、本願発明の要旨における多官能性化合物の規定、すなわち、「少なくとも二個の活性水素原子をもち、その少なくとも一つはアミノ基に属し、他はアミノ基、アルコール性又はチオール性に属する活性水素原子を有する少なくとも一種の多官能性化合物」という広範な規定及び本願発明の詳細な説明の項における「多官能性化合物」についての、一般的で、右以上に特別に定義のない記載(成立に争いのない甲第七号証第五頁八行~一八行)からみれば、本願発明におけるアミンをそのように限定して解すべき余地はないのであるから、原告の右主張は理由がない。(原告の指摘するような芳香族性アミン、立体障害のある脂肪族性アミンが右「詳細な説明」の項において、「例えば、……」として、単に例示として挙げられているにとどまることは、その記載に徴して明らかである。)
付言するに、成立に争いのない甲第二号証によれば、同号証のアミンについてはその第一頁右欄下から五行~第二頁左欄四行に具体的説明のされていることが認められるところ、それらが、すべて本願発明の要旨における多官能性化合物に関する規定のうち「少なくとも二個の活性水素原子をもち、その少なくとも一つはアミノ基に属し、他はアミノ基……を有する多官能性化合物」に含まれることは、当業者にとつて明白なことである。
次に、原告は、甲第五号証を挙げて、甲第二号証に記載の処方では表皮が一体となつたウレタンフオームは得られないから、甲第二号証のアミンは本願発明の多官能性化合物に入らない、と主張する。
しかしながら、成立に争いのない甲第五号証によれば、その実験は甲第二号証の教示及び実施例に従つてされたものと認められるところ(甲第五号証第六頁四の(一)及び(三))、前掲甲第二号証によれば、同号証に記載の発明は「急速高強度のポリエーテル型ポリウレタン泡の製造方法」についてのものであつて、これが、型を冷却して行なう引用例ないし本願発明の方法でないことは明らかである。(ウレタンフオームの製造に当つて、型の温度を規制し、冷却することが従来法といかに異なるかは引用例に明記されている。)
これを換言すれば、甲第五号証の実験は、もともと表皮が一体となるウレタンフオームの製法を行なつていないのであるから、表皮が一体となつたウレタンフオームが得られないのは当然のことというべく、原告の右主張は前提の誤認に出ずるものというべきものである。
(二) 原告は、甲第二号証は予め外皮を形成しないで一体となつた表皮をもつウレタンフオームの製法を開示していないから、審決は同号証の技術内容の認定を誤つている、と主張する。
しかしながら、審決は、本願発明が甲第二号証の発明であるとしているのではなく、本願発明は引用例及び甲第二号証などに示される公知の事項により当業者が容易に推考しえた発明に過ぎないとしているのであるから、原告の右主張は審決の取消事由としてはそれ自体失当である。
3 容易推考性について
原告は、型を冷却しさえすれば表皮が一体となつたウレタンフオームが得られるとは限らないから(甲第五号証)、審決が本願発明を容易に推考できるものであるとした判断は誤りである、と主張する。
この主張は、甲第五号証を根拠とするものである。しかしながら、上述のとおり、甲第五号証の実験は、もともと表皮が一体となるウレタンフオームの製造を行なつていないもの、すなわち、甲第二号証の処方を甲第四号証(引用例)に記載の方法に適用していないものであるから、これをもつて本願発明の容易推考性を妨げる根拠とすることは無意味であり、原告の主張は理由がない。
三 以上の次第で、審決の取消を求める原告の主張はすべて理由がないので、本訴請求は失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の要旨は左のとおりである。
軟質又は半硬質ポリウレタンプラスチツクフオーム成型物の製造に当り、前記フオームの製造における多量反応体としてポリオール、ガス発生剤(これは水であることができる。)、少なくとも二個の活性水素原子をもち、その少なくとも一つはアミノ基に属し、他はアミノ基、アルコール性又はチオール性に属する活性水素原子を有する少なくとも一種の多官能性化合物及び有機ポリイソシアネート及び/又は末端にイソシアネートをもつプレポリマーから成るイソシアネート成分を含むフオーム化用液体を型の中に導入し、この場合、前記フオーム化用液体の導入前に型の表面の温度を一〇〇度C以下となして成型物上に所望の表面層を形成させ、かつ、前記多官能性化合物の存在量を存在するポリイソシアネート成分の当量の七%よりも多い量となすことからなる連続した、すなわち非細房性の表面層によつて被覆された前記成型物の製法。